ボロアパートを引き払う時のこと

忘れられないあの部屋。
わずか5年、一人で暮らした古い二間の部屋を、今でも目を閉じるとはっきりと思い出すことができる。
私の生年月日よりももっと高齢のその部屋で、私は色んなことを学んだ。


一人暮らしの寂しさや、働くことの大変さ。
恋する辛さや切なさ。
まさかこんな古い部屋で5年も暮らすことになるとは正直思っていなかったが、気が付けば日々の忙しさに引越す時間も無ければお金も無かった。

真冬には、よく水道が凍ってしまった。
建てつけも悪く、窓をしっかり締めてもどこからか風が吹き込んでくる。
たった一台のヒーターに思いっきり背中をくつけて温まっていたので、何度も洋服の背中部分を焦がしたものだ。
それに気づかず、デートに出かけたこともあった。

灯油を注文して玄関先まで届けてもらうこともあったのだが、約束の日仕事から帰ってみると無いことも何度かあった。
夏は本当に暑かった。
クーラーは無く、扇風機一台でしのぐ日々。
いくら暑くても、窓を開けたまま寝るわけにもいかず、熱帯夜は本当に辛かった。

見るからにみすぼらしいこのアパートを、私のプライドが許せなかった。
まるで、私自身を象徴しているかに見えたからだ。
私はこの部屋からお嫁に行った。
6月最後の日曜日。

荷物をまとめて部屋を掃除。
適当にやるつもりでいたのに、いざ本当にここを出るとなった時、私の雑巾がけの手に力がこもった。
大家さんが感謝するほどピカピカに磨き上げた。
もう二度とここには戻らないと思った時、どうしてだろうか泣けて泣けて仕方が無かった。

この部屋のおかげで、色んな経験ができたことを忘れないだろう。

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